阿芙蓉寝台
宝野アリカ
水銀を混ぜた薄紅の美酒を
そうと知りながら飲み乾しては
溶かしこむ 戀よ
この身が纏えぬ白繻子の衣を
微醺の躰を巡り終えた
血糊で染めれば
甘き死を粧って
あなたが抱く
私こそが罌粟(どく)の華
足も腕ももぎ取られた
囚われの女のように
想いだけが留まっている
胸を裂けばこの鼓動を
捧げて饗せますか
擦り切れた絹の阿片寝台に
臥せれば百年も昔の
黄昏が広がる
永い刻をただ出逢う為だけに
生きたと申し上げましょう
あなた終わりなどないと
永遠の忘却は
恐れより痛みより
耐え難いもの
頸も骨も切り刻まれ
人形(ヒトガタ)の一塊となる
わが心は烟と散り
物を言わぬ脣から
吐き出される紫
吸えよ深くこの私を
さあ咽に皮膚に肉に
爛れながら気づくがいい
限りないほどの恍惚
真の愛の化身を
私を視る眼を剔ろう
ああ愛しき罪人よ
闇の底で共にあらん
裂いた胸の心臓を
重ねて饗し合おう