母いすゞ
Kazuya Yoshii
モネの絵みたいな港町
いつもの母の朝
長男の部屋は物置きに
次女とは会話が無い
光る煮物の芋 誰かから電話
大事なさんまが焦げるわ
あら箸が無い
母いすゞは 母いすゞは
果物にたかるハエ追っ払って
誰ともなく呟く
「一度でも愛した人のこと
けなすもんじゃないよ」
一雨来るかも 雷鳴るかも
かれこれもう十何年と音沙汰がない
父ジャンとは 父ジャンとは
エンヤー船が出た
エンヤー水揚げだ
変な空模様だ 変な鳥の群れだ
変な海の色だ 変な風向きだ
今夜は荒れそうだ 長男元気かな
「パトリオットミサイル」を
「アプリコットミサイル」と
言い間違えた
「ナスカの地上絵」を
「ナチスの地上絵」と言い間違えた
「おひつのご飯」を
「棺のご飯」と言い間違えた
母いすゞは 母いすゞは
母いすゞは
強かった